横浜の我が家からなかなかに遠い場所にある「ちひろ美術館」。
「村上春樹とイラストレーター展」が開催中と知ってどうにか行きたい!と思ってジリジリ考えたあの日。
翌日、新宿方面に行く予定があり、近くまで来た(と言うほど近くもない)んだから行っちゃえ!と、炎天下の中、施術用の大荷物を引きずりなら鼻息荒く行ってきたのでした。
(浮かれ過ぎたのか、降りる駅を間違え&勘違いしたまま歩く事25分。しっ死ぬ・・・。みなさんはくれぐれもお間違え無く!!)
そんなに好きか!と我ながらびっくりでした。やれやれ。←これが言ってみたかっただけ。
「村上春樹とイラストレーター展」
期 間 : 2016年5月25日(水)~8月7日(日)
主 催 : ちひろ美術館 http://www.chihiro.jp/
村上春樹とイラストレーターをテーマにした初の展覧会
現代日本を代表する小説家のひとり、村上春樹(1949-)は、さまざまなイラストレーターと共作をしています。本展では、これまで、それぞれの文脈で語られてきた文学とイラストレーション相互の関係に焦点をあて、村上春樹と佐々木マキ(1946-)、大橋歩(1940-)、和田誠(1936-)、安西水丸(1942-2014)とのコラボレーションを紹介します。小説、エッセイ、翻訳、絵本など多岐にわたるジャンルで書かれた村上の文章は、それぞれ異なる表情をまといながら、鍛え抜かれた文体に支えられています。4 人のイラストレーターも作品に合わせて画材や技法を変えながら独自の画風で対峙しています。文章を支える文体、絵を支える画風にも着目し、相乗効果によって現れる豊かな世界を紹介します。(http://www.chihiro.jp/tokyo/museum/schedule/2016/0119_1653.html)
一番見たかったのは、佐々木マキさんの原画たち。
パキッとさせすぎない色合わせ(だけれども目に飛び込んでくる)や、あのちょっとふにゃっとした太めの線がすごく好き。
ミュージアムショップで、クリアファイルやはがきを買ってほくほくです。
(羊男がやっぱり一番好き!)
某社から怒られちゃいそうなモチーフのこのイラストも好き。
(和田誠さん・安西水丸さん作)
イラストや版画のほか、仲良しの和田誠さんと安西水丸さんと交わした言葉のパネルや、和田誠さんとの音楽にまつわる共作(ジャズアルバム)CDが流れていたりと、文章の中だけでなく村上春樹ワールドとその周辺を垣間見られる温かい展示。
中庭のグリーンが優しく目に入ってくる穏やかなちひろ美術館の空間と相まって、静かな幸福感を感じられる時間でした。
実はこの静かな「幸福感」、初めて村上春樹作品に出会った時と似ていて、その事を思い出してちょっと嬉しくなったのでした。
漫画以外の本をほとんど読まないままに高校生になっていたぼんやりな私。
なんだか無気力な時期で、することもなくお昼寝のために通っていた学校の図書室(やたら居心地の良い場所だったの)で、佐々木マキさんのイラストに惹かれて手に取ったのが「羊をめぐる冒険」でした。
まさに、ジャケ借り。
あのぬるくて居心地の良い図書室で出会った佐々木さんのイラスト無くして村上春樹作品を読むことはなかったかもしれないし、そのお陰で高校時代は村上春樹小説にどっぷりで、読書の楽しみを知った身としては、恩人のようにすら思っている大好きなイラストレーターさんです。(本の装丁ってすごく重要だ!!)
当時、無知な私は村上春樹がどんな小説を書いているかも知らなくて、羊が主人公のミステリーかな?(絵本みたいな夢見る世界)と思っていたので、小説読み始めて「思ってたんと違う・・・」状態に陥りつつもその世界に引き込まれました。
一見ミスマッチな表紙と中身。
だけれど、村上春樹作品に共通する、どうにもならない巨大で邪悪な物たちがいる世界で、現実を受け入れつつも、静かに立ち向かうこととか、愛する事を諦めないというか己の信じる善きことを貫く心を持ち続けることとか、その中心にあるしなやかで柔らかいもの(上手くいえないのだけれど・・・)と、イラストの柔らかさが通じているようにも感じて馴染んでくる不思議。
館内のカフェには書籍も置かれていました。写真に写っているのは「羊男のクリスマス」。
初期三部作といわれる『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』に重層的に表れるモチーフから生まれた絵本です。
この作品の原画もストーリーの順番に展示されていて、至近距離で原画を眺めながら絵本を読み返しているような贅沢な気分。
館内にある「絵本カフェ」はフードもとても美味しかったのですが、なんと、カフェの期間限定メニューとして、鼠の好物「ホットケーキのコカコーラがけ」が用意されていました。(衝撃)
「ホットケーキのコカ・コーラがけ」
http://www.chihiro.jp/tokyo/guide/cafe.html#special
村上春樹とイラストレーター展スペシャルメニュー
- ホットケーキのコカ・コーラがけ ¥700(¥756)
バター&メイプルシロップ付 プラス¥50
村上春樹デビュー作『風の歌を聴け』に登場するあの一品!
主人公の友人の好物をメニュー化しました。
ちょっと不思議でなつかしい味が、村上春樹ワールドに連れて行ってくれるかも?
数量限定ですので、お早めに!
腹ぺこだったのでご飯系を・・と、ケークサレを食べたので私は注文しなかったのですが、結構多くの方が注文していました。
活字で想像していた物がこうして目の前に現れると、自分も物語の中に入り込んだような気分になって嬉しいですよね。
きっととびきり美味しい物ではないはず(失礼・・)なのに、コーラのかかったホットケーキを食べる人たちがすごく幸せそうな顔をしていて(そして「あ、あなたもですね」という同じ物を食べる人同士の柔らかい目配せがあって)、共に食事を分かち合う幸福感と不思議な一体感がそこにありました。
話は少し変わりますが、村上春樹作品の中の食事のシーンや料理しているシーンが私は特に好きです。
ずっと何だろなぁ、この感じ・・と思っていたのですが、内田樹さんが「もういちど 村上春樹にご用心」の中で書いているこんな文章を読んでちょっと腑に落ちました。
「ご飯を食べる」というのは人間にとって生きる上での、何より他者とともに生きる上での基本である。(中略)
「共食」(「ともぐい」と読まないでね)こそが人類にとって最も古い共同体儀礼だからである。(中略)それは一義的には生存のための貴重なリソースを「あなたに分ち与える」という「友愛のみぶり」である。
同時に、同じものをくり返し食べることを通じて、共食者たちは整理学的組成において相似し、嗜好と食性を共有し、やがて同じような体臭を発するようになる。そのようにして人々はある種の「幻想的な共身体」のうちに分ちがたく統合される。
(中略)
すなわち、食事の提供は「友愛のみぶり」であること、共食は生理的「共身体」の形成をめざしていること、食事を一緒に食べる事は一種の「舞踏」であり、同期的共生感を目指していること。(「村上文学における「朝ご飯」の物語論的機能」より)
なるほど、料理や食事はラブシーンだったのね!と。
よしものばななさんの作品も同じく食事シーンが好きなのだけれど、こちらも似た要素があるかもなんて思いました。(個人的には、壁ドンよりこっちの方がグッと来る。)
コカコーラのかかったホットケーキを食べるのも、ちょっとした「同期的共生感」を味わう機会だったのかもしれませんね。
最後は脱線してしまいましたが、このちひろ美術館での展示は、作品の世界にひたりながら、ゆっくりと思い思いのときを過ごせる、幸せな時間でした。
8月7日(今週末です!!)までですが、とてもお勧めです!
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もういちど 村上春樹にご用心
内田 樹 アルテスパブリッシング 2010-11-19
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コンテンツディレクション、文筆。工芸、古典芸能など暮らしや日本文化に関することを中心に、講座やイベントの企画・ディレクション、取材・執筆をしています。和樂web(小学館)、サントリー、中川政七商店、NewsPicks NewSchoolなどでお仕事中。夜の散歩、のんびり美術鑑賞、お茶の時間、動物が好き。